零～ZERO～

ﾌﾟﾚｲが始まると、
『梢ちゃんに、されてると思うと直ぐｲｯちゃうよ。
もっと顔見せて。』

まるで、有名人に逢った時の様なﾘｱｸｼｮﾝをする。

また、調子の良い事を言っている客の1人だと思っていた。


それでも、何度も、毎回来てくれる。
2人の会話は段々弾んで、ｼｬﾜｰ内ﾌﾟﾚｲそっちのけで、笑いながら話しをする仲にまでなった。




私の身体にｶﾞﾀが来ていたのだろうか。

朝の仕事を休みがちになっていた。
ｸｽﾘや鬱のせいでもあるけど…。


ある朝、母に叱られた。
『ﾊﾟﾊﾟだって、病気でも会社行ってるんだよ！
私だって、辛くても、ご飯作ってるんだから、しっかりしなさい！』


…もう風俗は辞めようと思った。
思った程、金は貯まらないし、少し、身体を休めよう。


いつもの様に、いつもの時間に、個室で
『もう店辞めるかも。』
と、いつもの彼に言った。


彼は、凄く驚いていて、
『いつ？いつなの？』
『まだ具体的じゃないけど、3月までとか？』


それから、私が出勤する度、
『本物に辞めちゃうの？』
そればかり聞いてくる。

おまけに、ﾌﾟﾗｲﾍﾞｰﾄな事まで聞いてくる様になった。
実年齢とか、住んでいる場所とか、ﾒｱﾄﾞ教えてとか。
私は、ごまかし続けた。

それでも彼は、しつこかった。

店に来た時とは全く違う、ｻﾖﾅﾗする時の、寂しげな顔。

彼の行動には謎が多かった。

私を抱きしめては、
『このまま、持って帰ってもいい？』
私は、嬢を演じているので、
『いいよ♪』
と、答えれば、
『本物に持って帰っちゃうよ？』

そんなやり取りで、終了時間のｺｰﾙ音が鳴ると、急にﾃﾝｼｮﾝが下がる彼。