零~ZERO~
『産みますか?』
の問いに、私は、自然と首を横に振っていた。

貴矢と具体的な話し合いもしていないのに。

手術日も私が勝手に決めてしまった。



今の私には"無理だ"そう思った。
自分の事で精一杯な私が、子供なんて育てられる訳が無い。
鬱が悪化する。
産まれて来た子供が不幸になると思った。



でも、エコー写真を持ち帰り、何度も見てしまう。

この、お腹に命が居る…。

迷いが全く無かった訳じゃない。
せっかく授かった命を、メス1つで、殺してしまっていいのか…。


それから、貴矢と何度も何時も話し合った。

『今の零には、難しいと思う…。』
そう言われた。



お腹を痛めて産んだ瞬間は、2人共喜びに満ち溢れているだろう。
新しい命が産まれたのだから。


でも、その先は?
その先は、どうするの?
どうなるの?



若い内に子供を産んで、鬱のせいにして、やっぱり子育て出来ません。無責任に自分の親に任せる様にはなりたくない。

私の年齢的には産んで、ちょうどいい歳だけど、これ以上誰にも迷惑かけたくない。
貴矢にも、親にも、子供にも。



そう考えている内にも、お腹の子は育っていく。

私は、やっと現実を受け入れられる様になった。

それと同時に、私をいつも気にかけてくれる親には何て言ったらいい?
そう思った。


離れて暮らしているんだし、このまま黙って中絶して、何も無かった様にする事も出来るじゃないか。
一瞬、悪い考えがよぎった。


だけど、私が子供の頃から…学生の頃は荒れ放題だった私と殴り合いの喧嘩をして、つっぱって苦労ばかりかけた親。
両親共、鬱で余計な心配をかけたくない。


だけど自分が大人になって、自分が親と同じ病気になって、やっと本音で色々話す事が出来る様になって来たのに、親に嘘をつくのは嫌だった。

嘘をつけなくなっていた。
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