零~ZERO~
母に中絶すると言っていたのに、自然と、お腹を守る自分が居た。

貴矢も私を、いつも以上に大切にしてくれているのが分かった。

『フローリングに、そのまま座ったらダメだよ。』

『おなか、冷やしちゃダメだよ。』
とか。

お腹の子に、わずかに残された命を2人で大切にしていた。

手術日まで、たった半月しか残されていない命を。



私はまた、自分の身体を呪った。
クスリ漬けじゃない、本当に健康な身体だったら、産んでいた事だろう。

また詞音を憎んだ。
私と貴矢の幸せまで奪って行くのか。


泣いた。
沢山泣いた。
叫んだ。


お前(詞音)だけ不幸になってりゃいいのに、私達まで巻き込みやがって。


情緒不安定な私を、貴矢がなだめる。
そんな日々が続いた。


こんな身体でごめんね…。
お腹の子に謝った。
こんな私なんか憎んでいいからね。



貴矢は、
『零がいつか、前みたいな…って言っても、前の零を俺は知らないんだけど…そうしたら、また産めるようになるよ。
お金の事は心配しなくていいから、今は零の身体を大事にしようよ。』

そう言ってくれた。



手術日前日、母から電話があった。
『パパ、怒ってるよ。
彼、無責任過ぎるって。』
寡黙な父に代わって、いつも母が電話をくれる。

娘を傷つけた事に対して怒っているようだ。

でも、私は全部貴矢のせいではないと言った。

避妊して欲しいとは言っていたけど、それを守りきれなかった私にも責任があると言った。


今までの罰が当たったのかもしれない。



その日の夜、
私は、お腹に触れながら、
『ごめんね…。』
そう言って、お腹の子と最後の入浴をして、お腹を温めた。
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