零~ZERO~
詞音は自分の家庭環境を憎んでいて、喧嘩をするたび、

"自分が1番可哀相で、この辛さは誰にも分からない"
と、自分の殻に閉じこもり、私にも理由を話さない。

その場で喧嘩をすれば、詞音は黙り込む。
次第に私は、言いたい事を飲み込む様になっていった。

口にはしなかったけど、逃げたり、黙ったり、殻に閉じこもったりする行為は、詞音が最も憎んでいる父親の血を引いていると思った。

仲が良いと思えば、そんな事を繰り返していた。

事あるごとに、詞音とは連絡が途絶える。
時には、何の前触れも無く。

携帯は着信拒否、メールの返信なんてない。

私は、そのたび、地に足が付かない感覚に陥っていた。
何も手につかず、詞音の事ばかり考えていた。

何か、事故にあったのか。
ちゃんと生きているのか。

それでも私は、詞音と別れたくなくて、あらゆる手段を使って彼を繋ぎとめていた。

詞音の、おばあさんに泣きながら電話をしたのも数えきれない。
80歳過ぎの、おばあさんを、困らせてしまう事ばかりした。

でも、詞音を諦めたくなかった。
仕事が手につかなくても。
職場で、ちょっと気が緩むと泣いてしまう事もあった。

詞音が逃げる…私が追う…。
そんな事を繰り返しながら、気付けば7年もたっていた。
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