零~ZERO~
付き合い始めは、詞音の方が、
『零が居ないと生きていけない。』
と言っていたのに。
いつの間にか逆転していた。

それでもそれでも、詞音の事を諦めたくなかった。
出逢い系で、こんなに幸せで、運命の人に出逢ったと思っていた。
これが最後の恋愛になると、当たり前に思っていた。

私は、いつの間にか、詞音と知り合った頃の彼の歳を越えていた。
歳月が、たつほど詞音が全てになっていた。

こんなに人を好きになったのは初めてだった。
こんなに詞音を愛していなかったら、もう、とっくに彼とは別れていただろう。


ある時、詞音の、おばあさんが腰を痛めて入院する事になった。
彼にとって、母親代わりだった、おばあさんの入院で、職場と病院を往復する日々が続いた。

今思えば、本当に大人気ない事をしてしまったのだが、あまりに私の事を二の次にしている詞音に対して、メールで、
『もっと、私の事を、かまって欲しい!』
と、言ってしまった。

詞音は、物凄く怒った。
詞音の家庭環境に理解の足りない私に、相当腹がたったようだ。

『なにそれ。普通なら、見舞いのひとつや、俺を助けたりするもんじゃないの?』
そう言われた。

それからと言うもの、
『祖母を好きになれない人とは、付き合えない。』
と言われる様になった。
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