Believe~奇跡の鼓動~
「お待たせいたしました」
本当にお待たせされてやっと運ばれてきた紅茶とオレンジジュース。ジュースグラスは汗をかいたように水滴で濡れ ていた。
しばらく忘れられていたのだろうか。まあ、時間帯が時間帯だし、ウエイトレスのお姉さんもさっきから忙しそうだから、仕方ない。
冬の日暮れは早い。窓の外はもう真っ暗だ。
さほど広くない店内もほぼ満席で、さっきからウエイトレスのお姉さんが一人で走り回っていた。
花菜がポットから紅茶を注ぐと、カップから白い湯気が立ち上った。花菜は紅茶を一口飲むと、ふぅと息をはきあたしの方に顔を上げた。
「で?どうして逃げたの、あかり?」
う…、花菜なんか怒ってる?
「だ、だって、」
「だってじゃない!あそこは、『あたし、なっちゃんと帰る!』って言うとこでしょ!!」
「だって」
「だってじゃない!あんたとなっちゃんは付き合ってるんだよ!!あんたが好きなのはなっちゃんでしょ!違うの!?」
「違いません」
「だったら!ちゃんとはっきり言わないと駄目だよ!
…なっちゃん、可哀想だよ」
「?」
一瞬きょとんとしたあたしに、花菜は「ほんと鈍いんだから」と、ため息混じりに呟いた。
「あのね、今日あんた達3人と一緒にいて思ったんだけど…
あかり、あんたはもう少し今の自分の立場を自覚しなさい!
いくら“今まで通り”って言ったって、なっちゃんだって人間なんだよ?そんな簡単に割りきれるわけないじゃない。
ねぇあかり、さっき、なんでなっちゃんがあんな不機嫌だったか、わかる?」
あたしがゆっくりと首を横に振ると、花菜は、はあっと溜め息をついた。
「お好み焼き屋。
あんた、多賀城くんと半分こしようとしてたでしょ!ってか、あたしが止めなきゃしてたよね?もしも、なっちゃんがあかりの目の前で同じことしててごらん?どんな気持ち?」
そんなの、嫌だ。
すごく嫌。
あたしは泣きそうな顔で、なにも言えなくなった。
「ね?しかも相手は自分の恋人を好きなんだよ?いくら平然と見えたって、内心穏やかなわけないじゃん。
その後のショップも…」
泣きそうなあたしの目を見ると、花菜はその声色を少しかえて続けた。
「なっちゃんね、ショップで、あかりと多賀城くんが二人で楽しそうにしてるのを見てたんだよ。遠くから、ずっと。
あたしが『俺のあかりに手出すなって言えばいいのに』って、冗談っぽく言ったら、
なっちゃんたら『俺、あかりに愛されてる自信ないから』って、そんなこと言う自信ないって、切なそうな顔して笑うんだもん。
もう、たまんなかったわよ。」
震える花菜の声をききながら、あたしの瞳から涙がこぼれ落ちた。