裏表プリンス



そして向けられた瞳に、私は蛇に睨まれた蛙みたいに視線と身体が動かなくなる。

この男の瞳、何だか嫌い……。



「昼休み、来るのが楽しみだ」

「……………!?」

「たっぷり……可愛がって遣るからな」



耳元でそう囁くと小桜池くんは次の検体デッサンへと移って行く。


また………だ。

私の耳に残る謎の感覚。そして心無しか耳が熱い気がする。

私は火照る耳を手で覆った。



「楠原さんお待たせー」

「あ、うん有難うー」



私は火照りの冷めない耳を髪で隠し、素早く明け渡された顕微鏡の検体デッサンに取り掛かった。


デッサンに集中しても感覚と火照りは冷める事はなくて、漸く冷めた頃には既に授業は終わっていた。


あの感覚と火照りの意味が分からない儘、昼休みへと時間が流れて行く。



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