俺をオトしてみろよ。~愛しのドクターさま~
そんな言葉が耳に入ってきて、あたしは気付かれないようにそっと指の隙間から、今の状況を盗み見てみると。
口元を緩ませて楽しそうにクスクスと笑っているマイダーリンが、あたしの目の前に居た。
普段の無愛想ヅラからは想像する事が出来ないような、優しくて暖かな表情に、思わず泣きそうになる。
何だ、こんな顔も出来るんだ。
「とりあえず、マイダーリンっていうあだ名だけはやめろ。恥ずかしいから、な?」
「じゃ、何て呼べば…?」
恥ずかしい気持ちを抑えながら、あたしは平然を装って尋ねてみる。きっと、平然なんて装えてないだろうけど。
手のひらを自分の顔の前に翳(かざ)したまま、問い掛けると。
「じゃ、“先生”とでも呼んで貰おうか」
「せ、先生…?」
「俺は医者だ。そう呼んで貰えた方が、より高みを目指せると思ったからな」
凛とした声が、あたしの耳を貫いた。
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