キミはいない。
わたしは恐る恐る振り返った。
視界に入ったのは、綺麗な顔立ち。
俗に言うこれが「王子様」というヤツなのだろうか。
吸い込まれるような漆黒の瞳が真っすぐにわたしを見つめている。
不覚にも心臓が跳ねた。
顔は赤くなっていないだろうか。
「ぁ…あの、」
「この家に引っ越して来たの?」
少し低めで、優しい声。
思わず息を呑んだ。
わたしは返事をするかわりに首を縦に振る。
「…そう。―お気の毒に…」
「…え?」
聞き間違いだろうか。
今、確かに―…
「さぁ、戻って親御さんのお手伝いをしてきな?」
「は、はい…」
色々疑問があったけど、とりあえず二人のところに戻ることにした。
「振り返ってはいけないよ。そのまま戻るんだ。」
歩き出しにそう言われた。
更に疑問が募る。
だけど振り返ってはいけない気がして、わたしはそのまま立ち去った。
「すぐにまた会うけどね…」
彼がそう呟いたのも知らずに。