キミはいない。
「…ただいま!!」
平常心を保とうと、出来る限り明るく振る舞った。
「お帰り、ゆき。どこ行ってたの?心配したじゃない!」
「ちょっと海を見に行ってたの」
咄嗟に嘘をついた。
あの男の子のことは言っちゃいけない気がしたから。
「あぁ、綺麗だもんね。…あ、荷物はゆきの部屋に運んでおいたからね」
「ホントに?!ありがとう!」
自分の部屋を持てることに嬉しくなり、急いでそこに向かった。
「駆け上がったら危ないでしょ!」
階段を駆け上がるわたしに、下から注意をされたがそんなことどうでもいい。
早まる気持ちを抑え、ドアの前で一つ深呼吸をした。
「…よし、」
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。
かちゃり、
音を立てて扉は開いた。