【短編】ウラハラ
「…何してるんですか」
他に言葉が出てこなくて変な質問をした。
「何食べたい?」
相変わらず会話が噛み合ってない。
でも構わずに柏木さんは歩きだす。
自分の車の方へ向って。
促されるままに私は柏木さんの車に乗り込でしまう。
柏木さんの車はすっごくいい香りがした。
香水なのか芳香剤なのかとにかくなんていうか大人の香り。
私の肺がその香りで満たされていく。
ダメだ…。
またなんだか息苦しい。
私まだ、行くって一言も言ってないんですけど。
シートに座って、思わず心の声がこぼれた。
「行かないとも聞いてないよ」
そうなんだけど…。
言うタイミングなかったし。
柏木さんはネクタイを少し緩めて、顔に掛かった髪を掻きあげた。
いちいち仕草が大人っぽい。