【短編】ウラハラ
「いや?」
柏木さんは私から手を離さずに言う。
「嫌って言うか……だから、あの、無理なんです」
私はさっき言った言葉を繰り返した。
胸がぎゅうっと苦しくなる。
「自信ないです。…柏木さんはすごく仕事もできて女の人からも男の人からも慕われてて、私なんてただの事務だし…」
「美々ちゃんのいいところは俺だけが知ってればいいんだよ」
柏木さんの手が強引に私を引き寄せる。
鼻が触れるくらいの距離に柏木さんの顔がくる。
私の姿を映す瞳がそっと閉じた時に、柏木さんの唇が私の唇に重なった。
柔らかくて、熱い感触。
触れた瞬間に全身に電気が走ったような不思議な感覚に陥る。
でも、その唇は直ぐに離れた。