視線の権利

爆走!


スキーパンフ、春の新色メイクカタログの繁忙期も過ぎ会社は


ヒマだった。


なんでー!

「センパーイ! アキノさんと双子ロリじゃなくて双子アゲー?」

クスクス笑いながらバイト2人組が、お菓子で口をモゴモゴさせながら話かけてくる。

「よぉ、イメチェンか? 新しいオトコの趣味? コーヒー淹れてくれる?」

全体的にヒマとはいえ、ゲームのポスターのレイアウトに苦戦中の私の都合などお構いなしの主任。


上下に電光石火でつけられた、つけまつ毛でパソコンのモニターが見づらいよぅ。

何よりも視線が痛い!

心なしか顔もピリピリする。

ランチタイムは逃げるように会社の裏手のカフェで素早く食事を済ませ、オフィスに戻ろうとして足を止めた。


ボロボロの黒いパンプス。


下向き加減に歩いていたから気づいた。

私、こんなの履いてたんだ……。


目の前でキッとアルファロメオが止まる。あれ? この車。


「あら、ケイナちゃん。会社に戻るなら乗りなさいよ」

窓から顔を出したのはオーナーだった。

「は、ハイ」

ついオーナーの足元に目が行く。
いつだったかショールームで見たフェラガモのモスグリーンスェードローヒール。シルバーフォックスとよく似合う。

ごめんなさいごめんなさい。オーナーはいつも忙しいのに私は似合いもしない格好で、こんな靴で……。

「はあ。出先でご馳走になって断れなくて遅くなっちゃった」

「……お疲れ様です」

「着いたらリラックスルームにいらっしゃい」


やっぱり。


おこられる?

< 13 / 47 >

この作品をシェア

pagetop