視線の権利

「次の遅刻人、長谷川先輩はまだかしら?」


アキノの問いに現役主将という細身の美年、倉沢さんが眼鏡を正して? 答える。

「はい! 最強伝説はまだです。お忙しい方ですから」


「でも長谷川さんは今でも時々、頼まれたら稽古をつけに来てくれます」

と、塚本さん。


「ふうん。相変わらず律儀な事。アタシもまた行こうか?」

きゃーっと喜ぶ部活女子。
半笑いの男子。

なんだか私まで笑みがこぼれる。

「それにしてもアキノ先輩のご友人は上品な方ですね」

年下の主将・倉沢さんがニッコリと微笑んだ。

「え! そっ! そんな! アキノの『教育』で」

やだ!
上手く喋れない!

しかし現役部員女子がナイスフォロー!

「あ、やっぱり先輩って鬼副長ー?」

「うるさいわねっ。黒帯技、教育されたい?」

「されたーい!」

「やめとけー」

OB部員が苦笑する。が、嫌な感じじゃない。

「合気道は『和』の武道。アタシのどこが鬼かしらー?」

「そうですよー。ケイナさんもそう思いますよね?」

「う、うん!」

鬼と言えば鬼だけど。
私にとって大切な鬼だよ。アキノは。


個室が熱気を帯びてきた。

「あ、ちょっとお化粧なおししてくるね」

そう言って立ち上がると

「俺もトイレ」

と、さっきの部員じゃない男の子が立ち上がろうとした。


美形なんだろうけど……なんだか。


昔、合コンに来てた男性に感じが似ていて私は足早に化粧室に急いだ。
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