視線の権利
合コン中の、個室用化粧室は静かな奥まった所にあった。
「きゃあっ!」
手首を痛いほどとらえられ、電光石火で隣の男子トイレのドアに体を打ち付けられた。
「あんたみたいなさ、清楚なお嬢様ぶったコって結構エロいんだろ?」
「な……何の用ですか?」
「大人ぶって。本当は二十歳くらいじゃね?」
童顔で悪かったわね!
……なんて言えない。
脚がガクガクする。
「用? そっちが用事あるんじゃない?」
酒臭い息が顔にかかる。
「俺、○○大学生だぜ。ちょっと抜けてかない?」
マサシと同じ大学!
相手の指が塗ったばかりのグロスをなぞろうとする。
「いやあああっ!」
私は思い切り奴を、マサシの幻影を突き飛ばした。
思いの他、彼の体は吹き飛んで廊下の壁に倒れ込んだ。
「この女……」
ギラギラした眼で男が立ち上がる。
逃げる間もなく、クルッと壁に押さえつけられる。
「あいつら国立大だからってなあ」
そんなあ。巷でいう学歴コンプレックスに巻き込まないでえ!
「はなして。離して下さい……」
「あ、もっとなんかして?って? ……イデデッ!」
「合気道は『和』の武道。仲良くできない礼儀知らずは帰って下さい」
まず
視界に入ったのは鋭い眼光。
かなり高い位置からの、だった。