視線の権利

合コン中の、個室用化粧室は静かな奥まった所にあった。


「きゃあっ!」

手首を痛いほどとらえられ、電光石火で隣の男子トイレのドアに体を打ち付けられた。


「あんたみたいなさ、清楚なお嬢様ぶったコって結構エロいんだろ?」


「な……何の用ですか?」

「大人ぶって。本当は二十歳くらいじゃね?」

童顔で悪かったわね!

……なんて言えない。
脚がガクガクする。

「用? そっちが用事あるんじゃない?」

酒臭い息が顔にかかる。

「俺、○○大学生だぜ。ちょっと抜けてかない?」


マサシと同じ大学!
相手の指が塗ったばかりのグロスをなぞろうとする。



「いやあああっ!」
私は思い切り奴を、マサシの幻影を突き飛ばした。


思いの他、彼の体は吹き飛んで廊下の壁に倒れ込んだ。


「この女……」

ギラギラした眼で男が立ち上がる。

逃げる間もなく、クルッと壁に押さえつけられる。


「あいつら国立大だからってなあ」

そんなあ。巷でいう学歴コンプレックスに巻き込まないでえ!


「はなして。離して下さい……」


「あ、もっとなんかして?って? ……イデデッ!」


「合気道は『和』の武道。仲良くできない礼儀知らずは帰って下さい」



まず


視界に入ったのは鋭い眼光。

かなり高い位置からの、だった。
< 38 / 47 >

この作品をシェア

pagetop