視線の権利
「じゃあお先に」

と、そそくさとルームに戻る。

カップをテーブルに置くといきなりマイクを持たされた。

「ほら、ケイナ。ノールーマ!」

うわあ。


アキノはもともとザルでウワバミの酒のみだけど。

きっちり酔っ払う。
ちょうど長谷川さんが戻ってきた。

「ケイナが長谷川先輩に捧げまーす!」

うそ~!
先に曲入れてあるじゃない!

「古い曲ですが、いい曲ですね」

と、長谷川さんがドアを閉めながら淡々と言う。

「歌詞が全部はわからないんです~!」
僕がアシストしますから、とまた穏やかな声に無表情の彼。

さからえません。

曲はキョンキョンこと小泉今日子の
『木枯らしに抱かれて』。

難しい曲でほとんど歌ってもらった感じ。
長谷川さん、音域広い! せつない片思いの歌がさらに切なくて。


練習しようかな。いい曲だな。

で、次はリクエストで長谷川さんが歌う。

イルカの『なごり雪』。
サビの部分は大合唱。
そこからは懐メロ大会と化した。


カラオケ女王・アキノも熱唱!

私もすっかりみんなに溶け込んで合いの手を入れたりしていた。


「何か。お詫びをしなければ」

いつの間に隣に長谷川さんんん!

「そんな。私もスキがありましたし」

「デート」


は? 長谷川さんの声じゃない。
アキノがウーロンハイ片手に目の前に乗り出していた。

「長谷川先輩、このコとデートでお礼っていうのは?」

『先方の気持ちを無視したら失礼でしょう!』


あ、ハモった。


見事にハモった。


「あの、デートというよりお茶やお食事や行きたい場所などありましたら」

長谷川さん!

律儀すぎる。

律儀すぎますよ!

眼に隙がないですよ!


「本当……に? 」


しまった。

喉が渇いてアキノのウーロンハイをがぶ飲みしていた。

「海外でなければ、ご都合のよろしい時に」

大真面目に、


長谷川さんはメモ用紙に連絡先を書いてよこした。

私も携帯から彼のアドレスにメールを送って……。

って!


どうしよう!
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