視線の権利

改造!

「お疲れ様でしたー」
ムリヤリな半同棲の縛りも予定もない。

私は定時で帰ってゆく同僚を声で見送り、パソコンのモニターとにらめっこしてミスチェックやファイルの整理をする。

と、ひとまとめに引っ詰めた髪の束をグイッと引っ張られた。


「ぎゃっ!」

「『ぎゃっ!』はないでしょー? あーあ、枝毛発見!」


背後にはアキノ。
彼女はいつもキレイめのキャバ嬢ギリギリの格好で出勤する。アゲ嬢ファッション? っていうのかな?

マスカラとアイラインでグリグリに縁取られた彼女の瞳がギラリと光る。

「行くよ!」

パソコンを素早くダウンさせ恐ろしい力でアキノが私の腕を引っ張り上げる。


「い、行くって?」
「知り合いが新しくサロンを開店したの。その野暮ったい髪だけでもなんとかしよ!」

や、野暮……ったい。

余計なお世話とも言えず私はアキノの車に押し込まれていた。

「腕は確かな美容師よ」


え?

「時間なら連絡してあるから大丈夫だし、カットモデルって事でタダだから」


この強引さでタダとか?
もしかして私もアゲ嬢デビュー? 無理! 似合わない!


それ以前に、アキノ、説明省略しすぎ!

「ケイナは大事な合コン要員なんだからね!」

私が口をパクパクさせているうちにアキノだけが喋り


車の次に私が放り込まれたのは


お洒落な街の一角、静かな立地のシンプルでセンスの良いカフェみたいなヘアサロンだった。


オフでアキノと出かけるって初めてだな、と

ただひとり店内で微笑んでいる店長らしき女性をみて

そんなことに気づいた。
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