あめとてるてる坊主

「まだ早いのに、人多いね」


 眉間にしわを寄せて、里美ちゃんが言う。


「ここら辺じゃ大きな花火大会だからな。場所取りとかのために早く来る人多いんだ」


 彼の友人がそれにこたえる。


「だから早めに集合してみたんだけど……失敗だったかなー。はぐれないように気をつけてな」

「わかった」


 私はすでに人にのまれそうだった。

 必死に里美ちゃんの背中を追った。

 その前で、笑う沙世ちゃんと彼を視界に入れたくなかったから、里美ちゃんの背中をひたすら追った。


 でも、見てしまった。


 彼の左手が、沙世ちゃんの頭を少し乱暴な手つきでなでた。

 照れたように沙世ちゃんが目を細めた。
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