しらたまがーるず
一球目

 私立慶桜中学校。様々な分野に力を入れている全寮制の学校で、入学試験はペーパーテストでも面接でもなく、なにか一つ自分の特技を披露して見せる一芸入試という珍しいスタイル。

 俺、笹沼謙吾はこの春からその慶桜中学校に現国の教師として赴任することになっている。

 正式に職務に就くのは明日の入学式兼始業式からなのだが、今日は教師用の寮前に届いている家具を自分に割り当てられた部屋に運ぶ為に学校の敷地内に足を踏み入れていた。

 教師用の寮は校門から敷地内に入り、校舎の脇を抜けてしばらく歩いたところにある。

 その途中に大きなグラウンドがあるのだが、その片隅、高く盛られたマウンドに立つ小さな人影が目に入り、俺はその場で足を止めた。

 恐らくはこの学校の生徒だろう。150あるかないかの小さな背丈。腰まで伸びた漆黒のポニーテール。服装は上下とも白のジャージで、左手にはグローブ。右手には軟式の野球ボール。

 腰のくびれや胸の小さな膨らみはその生徒が女の子だということを表している。

 野球は男のスポーツだとされていた一昔前とは違い、今は野球をする女の子なんてそれほど珍しくはないが、俺はなぜかマウンドからバックネットに向かってボールを投げ込む少女の姿から目が離せなくなっていた。

 気づけば、俺の歩みは寮までの道をそれ、グラウンドのホームベースへ。

 マウンドの少女と目が合う。スーツ姿でバッターボックスに立つ俺を見つめる少女の瞳は、どんな感情を孕んでいるのだろうか。
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