しらたまがーるず
翌朝、身支度を整え、寮から校舎に向かう途中でふと思い返す。
「そういえば、あの女の子の名前聞いてなかったな」
まあ、これからは何度も顔を合わせることになるだろうし、聞く機会なんていくらでもあるか。
それにしても、今日から俺も『教師』になるのか……不安がいっぱいだ。
この学校の教員募集に応募して、新米の俺なんかが採用されただけでも驚きなのに、先日校長から直々に二年D組の担任を任せることにしたって言われちゃって……思い出したら緊張してきた。
体育館で行われる朝会では新任教師の紹介なんかもあったりして、ヤバい、考えてきた挨拶の内容忘れそう。
そんな風に考え事をしながら歩いてたもんだから、俺はちゃんと前が見えてなくて――前方から歩いて来た女の子とぶつかってしまった。
体格の差があるので俺はなんともないが、相手の方は音をたてて尻餅をつく。
俺は慌てて女の子の手を取って引っ張り上げた。
「ごめん、不注意だった。大丈夫?」
「……だいじょぶ」
少女はスカートについた砂埃を手のひらではらい落とし、足元に落ちていた本を拾う。
どうやら相手の方も本を読みながら歩いていたから前を見ていなかったみたいだ。
「……この学校の関係者?」
「あ、うん。今日から現国の教師としてこの学校に赴任することになったんだ。今校舎に向かってたところで――」
「もう、通り過ぎてる」
「え……」
言われて振り返ってみると、確かに校舎を通り過ぎていた。
俺は校舎の裏手の寮から、少女は校舎前の校門から、それが正面からぶつかるのだから、考えてみれば当然のことだ。
自分がどこを歩いているのかもわかっていなかったなんて、ちょっと気合いを入れ直さないとまずいかもしれない。