本屋の花子〜恋をしたら読む本〜
小池さんは何でも知ってるみたい静かな顔で頷くと少しも淋しくなさそうにそう言いました



多分時間が過ぎたから気持ちの整理が出来たのかも知れません


それは僕も同じで転勤が決まった時に真っ先に貴女に本当にもう2度と好きだと言ってはいけなくなったみたいな気持ちがして淋しかったですけど


でも時間が過ぎてみれば気持ちの整理が出来る物で僕も貴女のように静かに去りたいと思います



『はい。今から出発します』


『元気でね』


『あんたもなっ。元気でっ有難うございました』


僕は小池さんに深々と頭を下げました


あの時も最後に泣き笑いで小池さんは言いました


「私はずぇったいにサヨナラ言いませんから」


って。


だから僕も言いません



『ありがとうございました』


小池さんも綺麗な御辞儀で頭を深々下げました


遠くに離れてしまいますけど僕は貴女を忘れないでいたいと思います



『小池さん。じゃあね』


『うん。じゃあね』



そう言った小池さんは初めてSマートに面接に来た時のように立てば芍薬座れば牡丹のような華やかな笑顔でとても好印象でした


だけど歩く姿はペンペン草な小池さんも僕のタイプで、そんな彼女の「じゃあね」をきっかけに僕は回れ右をして一度も振り返らずにホテルの入り口まで歩きました


その時、僕の背中に向かって小池さんは言いました


『まっさん!小池幸せに生きて行きますよ』



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