伝えきれない君の声




「……わざと、ですか?」


「何が。」


「だから…倉田さんが、来たときの。」


「わざとじゃねーよ。たまたま、だよ。」


今日は用事があるからと、
私よりも先に仕事場を去る店長に聞いてみた。


店長は肩をすくめ、
「悪かったよ」と吐き捨てた。


結局、倉田瑞季はあのあと、
何も言わずに帰ってしまった。


俯き加減で、
早足で。



「別に、いいです。むしろ助かりましたから…」


――そう。
邪魔された、よりも
助かった、と言ったほうが正しい。



「……じゃあ、店番よろしく!
今日は早めに店閉めていいからな。」


店長は、上着に袖を通し
店を後にした。




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