伝えきれない君の声


いつのまにやら、
彼、菅原さんは常連客になっていた。


そして、いつものように
アイスコーヒーを頼む。


だから来るたびに、
「いつもの」
なんて言われて、まるで居酒屋のようで可笑しい。


そんな私たちの様子を、
店長はやっぱり気にしていた。



「なに、新しい男?今度は爽やかスポーツ系?」


「違いますよ。菅原さんはお客さんです。
…ていうか、前から男なんていないですし。」


「ふ〜ん。菅原さんねぇ。
前の兄ちゃんとは、随分違うのな。」


前の兄ちゃん…
倉田瑞季のことか。



「倉田さんは…もう、関係ないです。」


思い出したくなくて、
かぶりを振った。


本当は、名前を言うのだって辛い。


「だって、あの人は…」



「あの人は?」



私を、利用してたから。


―リヨウシテタカラ。



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