伝えきれない君の声
「…どうぞ。」
びしょ濡れの彼に、
タオルを渡す。
新しいの、おろしておいて良かった
「ありがとう…」
彼は情けなさそうに笑い、
タオルを受け取った。
―――あのあと、
店長には書き置きを残し、
休憩室に残された傘を手に
私の家へと彼を呼んだ。
呼んだ、よりも連れてきたのほうが正しいかもしれない。
終始、俯いたままの倉田瑞季。
でも、何でだろう。
私達の間に、沈黙は心地好くて、むしろ安心した。
――彼の来ていた上着を脱がせ、取り敢えず乾燥機に入れる。
タオルで髪を拭く動作にもはきがない、倉田瑞季。
今はやっぱり黙っておくべきか。
声をかけるべき、か。