伝えきれない君の声



「…どうぞ。」


びしょ濡れの彼に、
タオルを渡す。
新しいの、おろしておいて良かった


「ありがとう…」


彼は情けなさそうに笑い、
タオルを受け取った。



―――あのあと、
店長には書き置きを残し、
休憩室に残された傘を手に
私の家へと彼を呼んだ。


呼んだ、よりも連れてきたのほうが正しいかもしれない。


終始、俯いたままの倉田瑞季。


でも、何でだろう。
私達の間に、沈黙は心地好くて、むしろ安心した。




――彼の来ていた上着を脱がせ、取り敢えず乾燥機に入れる。


タオルで髪を拭く動作にもはきがない、倉田瑞季。


今はやっぱり黙っておくべきか。

声をかけるべき、か。






< 127 / 154 >

この作品をシェア

pagetop