伝えきれない君の声
9,伝えきれない君の声
「ねぇ、美春ちゃん。
これ出てみたら?」
「…これは…?」
「ああ、なんかどっかの新人アーティスト発掘のオーディションだろ?」
店長がタイミングよく、
声をかける。
「オーディション…」
現在の時刻、午後3時。
お得意さんの、テレビ局に勤める佐藤さんが私に一枚の紙を差し出した。
「ちょうどさ、こんなん部署で配られたから、美春ちゃんにぴったりだと思って。」
「ありがとうございます。
でも私……」
「あ!それ俺もあんたに持ってこようかと思ってた。」
そして新たにタイミングよく現われたのは、菅原さん。
アイスコーヒーちょーだい。
と軽く言われ、
「はーい。」と私も軽く答える。
「そういえば菅原、お前この企画の担当じゃなかったか?」
「ああ、そうです。だけど、俺はあんま関わってはないんですよ。主催のレコード会社が勝手に進めちゃってる感じなんで。」
佐藤さんに言われ、菅原さんはやや苦笑気味で答える。
――レコード会社…
嫌な予感は的中。
「栗田、どうした?」
店長の声で我に返る。
「えっ、いや、何でも…」
ない、わけがない。