伝えきれない君の声
「栗田…いいのか?」
店長が、店内の時計と私を交互に見据え、言う。
相変わらず、店内は騒がしく
コーヒーの良い香が漂っている。
「大丈夫です。私にはやっぱり、“ここ”で働くことに意味があるから。」
そう。
今日は、あの新人オーディションの当日。
結局私は、行かないことにした。
――弱虫。
そうね、そうかもしれない。
だけど、
私はこの現状に満足で、
意地を張っているわけでも何でもない。
「お前がいいなら…いいけど。」
店長は渋々呟くと、
休憩をとるため、奥の部屋へと入った。
その背中を暫く見送ったあと、
私は訪れるお客さんに、
コーヒーを作る。
そう、これでいい。
これが………
「おいっ!栗田!」