伝えきれない君の声
突然の大声に、
私はともかく、店内にいる人々みんなが振り返る。
そんなのお構いなしに、
店長は続けた。
「で、出てるんだよ!あいつが!」
「出てる?あいつって一体誰…
「あいつだよ!倉田…何て言ったっけか…あぁ!とにかくいいから、来い!」
店長は私の手をぐいっと引っ張り奥の部屋へと足を踏み入れた。
そこには、
そこのテレビには、
紛れもなく、倉田瑞季が映っていた。
いつもの…いや、
いつもに増して綺麗な顔で、
スーツを着こなし、
髪を整え
司会者の言葉に時折頷き、
笑い、目を伏せ…
カメラが引き、全体が映される。
彼の後ろには、
「新人アーティストオーディション」というような文字が映っている。
「これ、生中継だったんだな…
でも何で、この兄ちゃんがいるんだ。」
そんな疑問に答えるかのように、
「えー、今日は、倉田譲社長の代理として、息子さんである倉田瑞季さんに審査員としてお越し頂いております。」
ははーん。そういうこと。
店長と目を合わせ、
お互い気まずくなり、
テレビへと視線を戻した。