伝えきれない君の声
「アーティストになる、ならないじゃなくて、悔しくないのか?
あの兄ちゃん、こんなに近くにいるんだぞ?」
はっとして、
私は隣にあるテレビ局を見た。
「近くにいるのに、テレビ超しなんかでいいのかよ?
あいつに言いたいこと、まだあるんだろ?
じゃあ訴えてやれよ。
こんな機会、滅多にないんだぞ?」
震えだす、体。
思わず口元を手で覆った。
「あいつを想って作った歌が、あるんだろ?」
さっきよりも優しく、私に言う。
「アーティストになるとか、そんなことは忘れろ。
今は…あの兄ちゃんの為に、歌え。」
ゆっくりと、テレビへと視線を移す。
そこには、
真剣に曲を聴く、倉田瑞季がいた。
目を伏せたときの、長い睫毛。
笑ったときに出来る、目尻のしわ。
私を抱き締める、力強い腕。
ああ、忘れたくない。
忘れられない。
「…私っ…」
自然と頬を伝う、涙。
「おい!」
ふいに聞こえた、声。