伝えきれない君の声
そこには、息を切らし
眉間に皺を寄せた、菅原さんが立っていた。
「まだ、ぐずぐずしてんのか?」
ため息と共に、
私の手首をがっちりと掴む。
「店長、あのギター持ってってもいいですよね?」
壁際にあるギターケースを、
顎でしゃくる。
「ああ、どうぞ。」
「じゃあ、借りますよ。
ついでに、栗田美春も。」
「…えっ?!」
ニヤリと不敵に笑うと、
ギターを右手に、左手には私の手首を握り、
ドアに向けて歩き出した。
慌てて振り返り、店長を見る。
店長は微笑み、頷いた。
私はさらに泣きそうになり、
懸命に頷いた。
涙を隠すために、目を伏せたまま。
いつのまにか手首を掴んでいたはずの菅原さんの手は、
私と手を繋いでいて、
未知なる世界へと一歩一歩近づいていた。
彼が、倉田瑞季が、ここにいる。
そう考えるだけで、
胸が熱くなった。
トクン、トクン…
耳にまで、鼓動が響いている。