伝えきれない君の声
ふと時間を確認するために、
私は鞄の中の携帯を掴もうとした。
(…あ!)
そう。
マフラーを渡すのを忘れていた。
これが理由で会ったのに、
流されちゃいけない。
「倉田さん…!」
「ん?」
半歩先を歩いていた彼は、
私の声に振り向く。
おかしいな。
たったこれだけなのに、
マフラーを返す、それだけなのに。
私たち、
これを渡したら
もう会えないような、
そんな気がするの。
どうしたんだろう、私。
「…栗田さん?」
私、今どんな顔してる?
どんな…どんな私が、
あなたに映ってる?
私は無意味に、
マフラーの入った袋を握り締めた。