伝えきれない君の声
一瞬にして、
何も聞こえなくなった。
女性は、彼に何かを話し、
抱きついた。
彼は、倉田瑞季は、
一瞬驚いたものの、
抱き締め返した。
――やだ、私。何やってるんだろう……
別に、彼の中で私は
特別でも何でもないわけで、
私が勝手に
勝手に追いかけたわけで、
それを彼は、知らない。
ほんと、私…何やって……
いつのまにか2人は、
私のほうへと歩き出していた。
あわててシャッターの閉まったお店の陰に隠れる。
倉田瑞季は、
何も気付かず私の横を通りすぎる。
――ズキン……
胸が、痛い。
通りすぎる刹那、
女性の顔を見ると
――えっ……?
あの女性だった。
お店に来た、あの綺麗な女性。
私は思わず漏れそうになった声を押さえるため、
口元を冷えきった手で覆った。
一体、どういうこと…?