伝えきれない君の声
ぽかんと口を開き、
私を見る。
「…あ!えっと…歌…」
「歌?」
「そう、歌声が、好きなんです。倉田さんの……」
必死な言い訳。
頭の中はぐるぐると回り、
更に熱が上がる。
「だから…また、お店に、歌いに来てください。店長も、待ってますから…」
シャツの裾を離し、
目線を移す。
なんだか今は何を言っても、
言い訳のよう。
でも、これは本当のこと。
彼の歌を待っている人は、
必ずいる。
「…ありがとう。」
霞む景色の中、
彼の顔がゆっくりと近づく。
ひんやりとした指先が、
頬に触れる。
「俺も…好きだよ…」
これが夢なのか、現実なのか。
私には、わからない。