伝えきれない君の声
今夜のライブに向けて、
表に出したランチメニューを片付けようとすると
「美春ちゃん、今夜も聞きにきたよ〜」
と、常連のお客さんたちが声をかけてくれた。
「ありがとうございます。」
心からお礼を言って、
温かい気持ちに浸っていると、
「あの…」
聞いたことのある声が、
私を止めた。
振り向く。
その時間はスローモーションのようで。
ふわふわとした、感覚。
物音が消え、
その声の方向にだけ振り向く。
ペコリとお辞儀をする女性。
あの雨の日の、女性だった。