伝えきれない君の声
突然すぎて、何も理解出来ない。
彼女が新人開発部の人間?
私をスカウトする?
ましてや、社長までもがわざわざあの店に?
ただの鼻に付く存在だった彼女が、いきなりテキパキとしたできる女に感じた。
見る目で人間、変わるものだ。
「…あの…」
「なぁに?」
「私のこと、一体どこで知ったんですか?
私、全然有名じゃないし。」
「それはね、」
――風の便りよ。
意味深に微笑む。
納得の出来ない答えに、
私はあからさまにしかめ面をした。
「…せっかくですが、お断りします。」
「えっ?」
「私、今で満足してますから。
デビューしたいとは、思ってません。
私の歌を楽しみに来てくれる、
今のお客さんで十分です。」
店員が、私の語尾に被せるようにコーヒーを机に置いた。