伝えきれない君の声
ふわりと香る、コーヒーの匂い。
でも私は、飲む気になんかならなかった。
「失礼します。」
こんなの、信じられるわけない。
立ち上がり、
出口へと向かおうとした私に、
「待って!」
彼女の甘い声が止めた。
「あなた…プロを目指してたんでしょ?
このチャンス、逃していいの?」
ピタリと止まる、思考回路。
ゆっくりと振り向く。
彼女はそれを、引き止めが上手くいったと勘違いしたに違いない。営業スマイルで私を見つめる。
けど、私は違う。
「なんで…知ってるんですか?」
もっと、違うことで振り向いたの。
「なんで…プロになりたかったこと、知ってるんです?」