カナリアンソウル
私は手を挙げて、貴の口を閉ざさせた。

冗談はやめてという私の言葉に、貴は動じる様子もなく、

「冗談じゃないよ。なんだよ――ずっと好きアピールしといて」

ときっぱりとした表情。

手の中にある鍵の束が宙を舞って、また綺麗に彼の手の中に吸い寄せられた。

貴は鍵を持った手を挙げて笑う。

確かに私は貴が好きだけど、彼の何を知っているかと聞かれると、ほとんど何も知らない。

彼もまた同じだろう。

私のことを、何も知らない。

「どうして笑うの?また馬鹿にしてるんでしょ」

コインを急いでケースに掻き込んで、少し乱暴にカウンターに置き、店を出た。

貴に、この話をしたのが悪かったのか。

「付き合う」という言葉がやけに軽々しく感じられた。

内心は誰にも見せられない程に乱れていた私は、無意識で卓人に電話をし、付き合えないことを告げていた。

自分の長年の恋心を踏み躙られたようで、悔しくて悲しくて、辛い気持ちでいっぱいになる。

そんな気がしていたけど、実際は違った。

何度考えてもやっぱり、わくわくした気持ちの方が先に来てしまう。

「貴と付き合えるチャンスだよ」

脳の中で拡散した。
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