カナリアンソウル
確かに最近は物一つ食べるにせよ、食べなくちゃと思う気持ちにすらめんどくささを感じていた。

でも、きっとこれは、テストという重苦しい期間のせいだろう。

「うちも、もう四日も何も食べてないんだ」

冗談を言っているのかと私は笑って聞いていたが、鞄から出した煙草の箱と微糖の缶コーヒーを見せながら、ひろみは存外真面目顔である。

「どうしてご飯食べないの?」

「今テスト期間だから集中したいの。そりゃあ、体に良くないことぐらいわかるよ。でも、こうしないと勉強がはかどらないからね」

ずいぶん自信ありげに自説を進めるひろみだが、私にはどうもピンとこない。

それで成績はあがる? と訊ねると、ひろみはあっさり首を振った。

「残念ながら。でも、最初ぐらいは気合い入れても良いじゃん」

実に説得力に欠ける回答。

何かもっと気楽にテストを乗り越えられないか考えていると、メールの内容どうしようかと突然ひろみが言いだした。

しばらくしてやっと、煙草と缶コーヒーの話はとっくに終わって、恋愛の話が始まっていることに気づき、その話の展開にえらく難儀した。

吐き出された息は、ゆらゆらと白く、空に昇った。
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