カナリアンソウル
貴は正面に視線を戻して黙ったまま、私の横に立っている。

私もその場に立ち続けた。

「次の祭、一緒に行く?」

そして出てきたのは、以外にもこの言葉。

「えっ…」

「俺告ったのにさ、格好つかないんですけど」

他人を、自分とは別の他の物みたいに見下げるような言い方。

貴のたまに出る悪いところだ。

玄関の隅に掛けられた時計は午前九時を指していた。

教室には入らず、私はその足で保健室に向かった。

私が通う高校の保健室はわりかし賑わっている。

ドアの右横にある自販機でバナナオレを買った。

廊下を通り過ぎる先生たちが目ざとくそれを見つけ近寄って来たが、私は走るようにして保健室の中へ逃げた。

雑なソファーに腰掛けるなり、私は保健師から何か悩みがあるなら話してみなさいよと急に話を持ちかけられた。

突然の保健師の言葉に、もちろん私は困惑した。

たいした話じゃないんだけど、これから先さ、誰かと本気で付き合ったり、結婚したりすることあんのかなって思ったんだよね――心底困った顔で私は答えた。

「自分にマイナスだと思うなら付き合わない。それが少しでも大丈夫と思える相手なら、ね――」
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