カナリアンソウル
どうやら、私は考え過ぎだったらしい――。

思い返すと、どこまでも馬鹿馬鹿しい話だった。

まったく、私は何に怯えていたのだろう。

保健室から出てすぐに、後ろから誰かに覆われる感覚。

「教室行ったと思ったら、ここに居た。一時間目出る気なかったのか」

一瞬硬直したのち、私は弾かれたように振り返った。

「私のこと好きじゃないよね?勢いで言ってんなら、凄い嫌なんだけど」

ハッキリ自分の気持ちを伝えたあとに、答えを聞けばいい。

「お互い様でしょ」

「お互い、さま?」

「俺達は、それだけ過ごしてる環境が違うってこと」

「そんなの…、てかなに抱き締めてんの?!私が悩んでんのも知らないで勝手なこと言わないで」

貴は首を軽くひねったまま私の顔を、遠慮なくのぞきこんだ。

「ちゃんと話すことあるから誘ったのにそんなんじゃどーしよーもねーわ」

貴は実に迷惑そうな口ぶりで私を咎めた。

「まあ良いわ。俺のこと信用できないことは充分にわかりましたよ」

白と黒がじっと私の顔に注がれる。

「お互い様って、どーゆー意味か説明して」

私達の距離は、どんどんと広がるためのものなのだろうか―…
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