カナリアンソウル
「これから、大変になるね」

「うちはなるようになるって思ってる。ただ中途半端にだけはなりたくないかな」

クラクションが鳴り車に乗り込む前、ひろみは卓人の母さん、本当のお母さんじゃないのとつぶやいた。

三年前。

ちょうど中学に入学するころ亡くなっで、今は再婚した義理の母親がいるらしい。

「だから卓人には幸せな家庭つくってあげたい」

ひろみからは、穏やかな眼差し、控えめな笑みがこぼれていた。

「大丈夫。幸せになれるよ」

今、ひろみを一番近くで支えられるのは卓人だけだと思った私は、真面目な顔で首を縦に振った。

「じゃあ、また学校でね」

「学校は普通に来れるの?」

「うん、佐藤に話してあるから。明日また会えるよ」

私が不安そうな顔をするから気を遣ってくれたのだろう。

もっとも、ひろみの配慮はうれしいが、私はどこまでも私である。

いつかは会えなくなるってことだよねとは言えないので、一緒に卒業しようねと言った。

何だか妙に先のことを言ってしまった。

もっとも、ひろみが卒業まで学校にいられないことはわかっていた。

産まれて来る子は、こんな私に懐いてくれるだろうか━…
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