カナリアンソウル
貴がテストのショックで頭でもおかしくなった? と心配そうな声で訊ねてくる。

ごめん、それは無いから大丈夫と謝り、気を取り直して、

「付き合うと何か逆に緊張する気がしない――」

と訊ねようとして、私は驚いた。

イジワルな顔をした貴の手が、私の口を塞いでいた。

「処女ってこと、丸出しにしなくて良いからね」

顔を真っ赤にして黙り込んだ私をバカにする。

「あほ…嫌い」

貴は私の手を握ると、「俺はあほじゃなくて、貴です。嫌いとか言うな。意外と傷つき易いんだから」とつぶやいて、下駄箱まで向かった。

「カラオケ久しぶりなんだけど。なに歌おーかな」

「いつもなに歌うの?」

「そんとき歌いたいやつ」

「それわかる。私も」

リクエストある?と取ってくれたらしい外靴を手渡され、上靴を脱ぎながら、無いよと返事した。

本当は貴と付き合えたら絶対に聴かせてほしい歌があった。

「ざんねーん」

不満そうな貴の声に、私は少しだけ慌てた。

「あの――聴けるならなんでも良いってことなんだけど」

ああ、と貴は声を上げた。

そーえば、俺、女子の前で歌ったことねーやと屈託のない笑顔を見せた。
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