カナリアンソウル
結局、歌うことを拒んだまま時間になった。

「歌えよな。もったいねー」

会計の最中、小銭を探していたらデコピンされた。

「痛いっつうの!」

「怖っ!そんな強くしたつもり無いんだけど…」

そっと撫でるように触れられた額、熱がこもる。

デコ広いからコンプレックスなんだけどな。

帰り際ふいにキスされ、嬉しいやら恥ずかしいやらで家まで走った。

途中、家の前の階段に座るおばあちゃんに出会ったが、私の顔をちらりと見たきり、何事もなかったように座り続けていた。

勢いよく走ったはいいが、近所の小学校のあたりで息が切れて、その後の数キロは歩いて帰った。

卓人が学校を辞めて、ひろみが子供を産んだら、私達の生活はすれ違うようになるだろう。

毎日過ごす環境の中で、お互いのことを、忘れたくなくても忘れてしまうような気がした。

もし、貴とも別るようなことになってしまったら……

ただ自分が忘れられることが怖くて嫌だった。

皆の記憶から私の存在がすっぽり抜けて行くのを想像したからだ。

カラオケに行く途中、貴は私に向かってこう言った。

瞑、変なこと言うけど、いつまでも一緒にいたいね――と。
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