カナリアンソウル
「昨日貴とカラオケ行ったんだって?」ひろみは言った。

「行ったけど、き、期待してるようなことはなにもないよ!」

私はひろみを見つめた。

私の机に頬杖していたひろみは、キョトンとしたあとで腹を抱えて笑った。

「そんなに笑わなくても――」

その言葉と同時ぐらいに、部屋のドアが開いた。

「おーい、見舞いだぞ」

老いぼれ〜とか言いながら入って来たのは、

「卓人!てか、老いぼれってなによっ!」

周りを見渡すが、老いぼれはどこにも居ないし、見舞いを受けるような人も居ない。

「何のこと?」

私は怒っているひろみに向かって首を傾げる。

うちが妊婦だからって弱いもの扱いしてくんの!とひろみは片手を上げ、卓人の手首を、パチンと打った。

あの告白を断った次の日、卓人と私は普通に接していた。

あっさりしてるもんだ。

「パパのこと叩くなんて、酷いママだ!」

この嬉しそうな顔好きだ。

たまに見る作り笑いよりも全然良い。

出来れば、私の前では心から笑って欲しい。

ただ―…

間違っても、お互いを苦しめる存在にだけはなりたくない。

私の頭の中はいつの間にか貴でいっぱいになった。
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