カナリアンソウル
後ろから卓人が付いて来ていたらしく、

「授業に平気で遅刻するのは良くないよ」

という落ち着いた声が廊下に響いた。

「馬鹿にしないでよッ」

私は思わず日に焼けた黒い肩を叩いた。

叩き方が悪かったのか、激痛が右の手首を走ったが、かまわず卓人を睨みつけた。

鈍い、白けた空気が充満した。

私は体操着を掴み直すと、そのまま走って教室に戻った。

鞄に体操着と授業とは関係の無いものをメチャクチャに詰めて、近所のゲーセンに向かった。

長いことゲーセンでガチャガチャとスロットを打ちながら、ひろみの泣きそうな表情をふと思い出した。

電車が警笛を鳴らし、ゴトゴト通過する音が響く。

ひろみ、今頃なにしてるかな…

部活の時間か。

「私はお試しなんかで付き合う程、軽い女じゃない!」

周りの音に掻き消されたと思っていた叫びは、どうやら約一名に聞こえていたらしい。

「ん、あげる」

横から差し出された、いちごみるく。

私は、いちごみるくの味が苦手。

これまで一度も美味しいと思ったことがなかったのに、手に取ることなく飲んだそれは、不思議と不味くなかった。

「卓人と付き合う気でいんの?」
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