カナリアンソウル

約束

ひと眠りがむた眠り、三眠りになった。

貴の規則的な深い寝息と低い寝言が、キッチンまでかすかに聞こえてくる。

キッチンでは、まな板と包丁が当たる音、リンゴの皮を剥く音がしていた。

私は、リンゴを皿に入れ、貴の部屋へと運んだ。

一度だけ貴を起こしたが、気持ち良さそうに寝てたので、ほっぺたに軽くキスしてみた。

「貴……」私は呟いた。

「私に言いたくないこといっぱいある?私、貴のなんなのかな」

鞄を持って静かに立ち上がろうと――。

「ごめん」

文字どおり、心臓が飛び出した。

「なに起きてんの。急に謝られても困るんだけど」

「なんとなく謝ってみた」

流し目で私を見ながら、得意気に笑われた。

その顔は反則だよ。

「…バカ」

「んな小学生みたいに怒んなくても良いじゃん」

「小学生とか言うな!んな幼くないし!」

こんなんで、もう必死な自分に呆れた。

「あー、もう。落ち着きな、さい…よ…ケホッ…」

貴は苦しそうに数回咳き込んで、近寄った私の服をギュッと掴んだ。

「ごめっ…大丈夫、だから…」

「良いよ。楽になるまでこうしてるから」

貴の風邪は思ったより酷かった。
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