カナリアンソウル
貴はシャーペンを手に取ると、鼻と上唇の間に挟み、いたく間抜けな顔をした。

「不貞腐れてんの?」

「べっつに〜」

貴がシャーペンをどこかに投げて、私の顔をのぞきこもうとしたとき、

「貴。ご飯だよ〜」と女の人の声がしたので、ビックリした。

「あ。姉ちゃん」

「ご飯だって。そろそろ帰るね?」

貴の部屋を出たとき、綺麗目な女の人とすれ違った。

恐らくお姉さんだ。

白のジャージを着たお姉さんは、ニヤニヤこちらを見て、軽く頭を下げた。

「ジャージ、一緒ね」

「あっ…え?」

今更ジャージなことを思い出して、恥ずかしくなった私は、急いで軽く頭を下げ玄関を出た。

歩きながらだった為、下げたと言うよりは振ったに近いが。

自転車に乗る気になれず押す手を思わず止めた私は、反対側の歩道を歩く女子高生たちを見た。

私たちと同じ高校の、今時からは掛け離れた流行る気配の無いセーラー服。

冷たい風が吹いて、スカートの裾がバサバサとなびいている。

一番最後を歩いていた女子は、ヒダが飛び切ったスカートを必死に抑えた。

咄嗟に、私の手に力が入ってジャージの裾を両手で持ち上げるように握った。
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