カナリアンソウル
残りのいちごみるくを飲みがてら、貴は私の顔をのぞきこんだ。

大丈夫、付き合わないからと私は答えるが、もちろん大丈夫なことなんて一つもない。

友達の男を取った「裏切り者」のレッテルを貼られないかと、内心ヒヤヒヤしていた。

そもそも裏切りって?

果たして、裏切るようなものが私とひろみの間にあるのだろうか?

もし無かったとしたら怖いから、考えないでおこう。

「ねぇ、なんで卓人は私の方に気が向いたのかな?」

私の質問に、貴は何かを答えようとしたが、急に黙りこんだ。

口元の筋肉を妙な具合に動かし、変な表情で私の顔を眺めていたが、

「仲良いからだろ――」

と詰まった声で、私の頭をガシッと掴み、ゆさゆさと揺らした。

「何さ、その理由は」

私の質問に貴は説明し始めた。

何でも人間関係は複雑だから、簡単に壊れてしまうらしい。

妙に納得できたけど、このまますんなり貴の意見を受け入れるのも癪なので、

「ふ〜ん」

と流しておくことにした。

“貴のどこが好き?”

奇妙なことに心の中で自分に問い掛けてみるが、返事は無い。

答えは、出さなくても分かりきっていると言った所だろう。
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