カナリアンソウル
それは、果穂と遊びで付けた根性焼き。


明希はそっと手を離した。


『なんて〜か…あたし、真面目にとか頑張って生きるの無理なんだよね。幻滅したっしょ?』


高校生にもなれば悪いことの一つもしたいし、人間関係にも悩む。


もっと歳をとれば笑い話になるだろうことも、今はふとしたことで死にたくなるくらい必死に生きている。


そんな、今だからあるようなくだらない小さな悩みの積み重ね。


でも。


でもさ。


明希はもっと…


一人の人間として、苦しんで悩んでいた。


「やっぱ結衣、変わった。こんな中学生じみたことすんなよ」


―ねぇ明希、当たってる?


明希はクシャっとあたしの制服の袖を掴んで握り締めた。


「お願いだから、俺のこと置いてけぼりにすんなよ…」


『置いてけ、ぼり…?』


なんのこと言ってんの?


「明希っ!何してんの?!」


突然勢い良く開いたドア。


息を切らして、血相を変えた女の人。


あの、綺麗目な女の人。


『あ…、』


明希の力が少し緩んだ隙に、急いで腕を引っ込めた。


女の人を睨む明希の目が鋭くて別人みたいだった。
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