カナリアンソウル
「…なんだよ」


「騒がしい音、廊下まで聞こえたわよ。何してるの!」


『あの、あたしは…大丈夫ですから』


本当に?息子が…ごめんなさいね。と切れ切れに言った女の人は、あたしの顔を見て優しく微笑んだ。


この人、明希のお母さんだったんだ。


ってことはタカのお母さんでもある。


「あなた、たまに見掛けるけど知り合いでも入院してるの?」


『いえ…あの、』


明希君の御見舞いです。何て言ったら、何で知り合ったか不思議に思うかな…


「同級生。たまに見舞いに来てくれるだけ」


少し早口気味で怒った口調だけど、顔は無表情のまま。


「そう…。明希と仲良くしてくれてるの?」


明希のお母さんは明希とあたしを交互に見たあと、丸椅子に置いてあったリンゴ入りの袋をそっとどかした。


『はい…』


あたしの目線は空を切った。


この人は明希とタカ、どっちの本当の母親なんだろう…


「良かったわね、明希」


最も今は二人の母親なのだが。


『あの、そのリンゴ良かったら食べてください』


俯いている明希を見ながら後ろ向きに進んで、泥棒のようにソロソロと病室を出た。
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