カナリアンソウル
ぼーっとしながら学校を出て、気付いたら病院の前まで来てた。


『久しぶり』


「……どーも」


明希は小さく頭を下げながら、頭の上にハテナを浮かべてるようだった。


『…リンゴ食べる?』


「いや、いい…です」


あたしは勢い良く前につんのめって明希の顔を覗く。


「ちょっ、なに…?」


明希は恥ずかしそうに顔を隠した。


『あたしが誰かわかる?』


「ま、まあ…」


絶対に嘘。


『じゃあ、いつ退院してあたしの隣の席に戻って来るの?同じ学校なのに全然居ないじゃん。だから病院来ちゃった』


「あ、ああ…隣の席の…」


『初めてで迷ったけどね』


「ありがと。わざわざ来てくれて、なんか嬉しいよ」


飽きれた。


やっぱり分かんないんじゃん。


『もー…バカ!』


「はいっ?!えっ?」


どうしたら良い?


どうしたら思い出す?


前にタカが忘れるけど思い出すこともあるような感じで言ってたよね…


どうしたら…


『……リンゴだ』


あたしはリンゴを一かじりして、勢いで明希の口に運んだ。


明希は目をまん丸くしたまま、ぼーっとしている。
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